ドイツ製の主要部分が皆無…でも最強。対戦車自走砲「マルダーIII」の皮肉
駆逐戦車、突撃砲、自走砲~機甲戦を支えた「戦車殺し」の強力な助っ人たち③
この事態を解決するべくIV号戦車の長砲身化(拙稿『「走・攻・防」に秀でた第二次大戦期のドイツ軍戦車(2017年07月05日配信)』参照)や、パンター中戦車(拙稿『2社で競合したドイツのパンター戦車開発、選考ポイントは砲塔リングの径(2018年04月11日配信)』参照)の開発が進められたが、最前線では、それらができるよりも早く、T34やKVを倒せる兵器を切実に求めていた。
どうすれば、可及的速やかに要求に応えられるのか?
考えられたのは、緒戦の大勝利で大量に鹵獲したソ連軍の76.2mm野砲に改造を加えて対戦車砲化したものを、戦車としては陳腐化したII号軽戦車やチェコ製38(t)戦車の車台に、オープントップの軽装甲の戦闘室を設けて搭載する対戦車自走砲の開発だ。かくして超特急で完成した前者はマルダー(動物のテンの意)II、後者はマルダーIIIと称された。
これらの対戦車自走砲は、車台は旧式戦車、戦闘室は屋根なしで軽装甲なため、敵の機銃攻撃ですら撃破制圧されてしまうぐらいに脆弱だった。しかし、搭載されたソ連製76.2mm砲は、「ラッチェブム」の渾名でドイツ軍将兵に恐れられていた優秀な砲である。ちなみに「ラッチェブム」とは日本語で「ドカーン・ドン」とでもいった意味で、発射音「ブム」よりも着弾炸裂音「ラッチェ」の方が先に聞こえる、つまり弾速が速いことを示すたとえだ。そのため、ソ連製76.2mm砲に限らず、ドイツ軍において敵の高初速の対戦車砲全般に用いられた渾名だという。
陳腐化した戦車の車台に敵から分捕った大砲を載せたこの両車、特にマルダーIIIに至っては、併合したチェコ製の車台にソ連から分捕った砲を載せたというドイツ製の主要部分が皆無の車両ながら、一時的にせよドイツ軍装甲戦闘車両中最強の座に在ったというのが、何とも皮肉な話である。
もっともマルダーII、IIIともに、初期生産型以降はドイツ製の7.5cm対戦車砲Pak40を搭載するようになった。
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